shobuno's blog

shobunoの日記です。日々見たこと、考えたこと、思い出した事などを興味の向くまま書いていきます。

クレームを上げる (今はなき株式会社Mの物語 10/16)

 株式会社Mの優れていたところは上意下達の組織がしっかりと出来ていたことでしょう。

上の言う事には絶対服従! 

逆らう事は問題外!(結構私は例外だったりして。。 ^^;)

言われた事は是非を考えずにまず実行!

間違っていても、突き進めぇ~!!

 

 そういう社風だったればこそ、私が試みた「小さな改革」が予想外に成果を出せたのかもしれません。

確かに、私の小さなプロジェクト運営は上手く行きましたが、プロジェクトの外は。。。

当然ですが、昔のままでした。

 

(私)「N主任! 大阪のM社の進捗が思わしくないんですけど。。。」

(N主任)「そうか。仕方ないな。。。言っておくわ。」

 

 今回のプロジェクトは、私がリーダーを務めた2度めのプロジェクト。

お客さんは天下の◯◯省。

◯◯省向けの各種データーベースのメンテナンス及び、配布システムの開発でした。

メンバーは、私の配下に株式会社Mの社員2名と、他社のメンバー3名、

それから開発のプロマネSさんの、7名の構成でした。

この7名でシステムの設計を行い、開発は株式会社Mの大阪(本社)部隊が行うという事になっていました。

 

 大阪チームは20人ぐらいの構成で、リーダーは私よりも10年以上先輩のH主事。

「shobunoリーダーって、何年目?」

「あ、はい。5年目になります。」

「知らんなぁ。ま、よろしゅうな。。。」

 

 今回の開発は、当時では珍しかったVisualBasicを使ったオブジェクト思考(風)の技術を使ったものでした。

当時の私は、COBOLという古い言語しか知らず、「オブジェクト指向って何?」

という感じだったのですが、部下のU君が、是非やりたいと言うので取り入れる事にしました。

恐らく、当時としても新しい挑戦だったと思います。

 

(U君)「shobunoリーダー! これからはオブジェクト指向です!」

(私)「そうか。オブジェクト指向って何?」

(U君)「オブジェクト指向っていうのは、つまり。。。(以下略)」

(私)「ごめん、全然わからない。。。」

(U君)「仕方ないですね。。。もっと勉強してくださいよ、リーダー。。。」

(私)「面目ない。。。」

上司の言うことは絶対のM社の中で、私のプロジェクトだけはリーダーに遠慮なくモノをいうメンバー揃いで。。。

私はそれをとても気に入っていました。

 

 

 さて、開発の方ですが、冒頭で書いた様になかなか順調に進めませんでした。

連日、大阪本社から電話が入り、プログラムの仕様について質問が入り、

設計チームを悩ませました。

 

(U)「それは、設計書に書いてあるでしょ?」

(大阪メンバー)「え?! どこですか?」

(U)「。。。。(ちゃんと読んでよ。)」

 

質問の問い合わせ電話は酷い時には3時間にも及ぶ事がありました。。。

設計チームの進捗も次第に遅くなって、連日11時過ぎまで作業しなければならない状況になってしまいました。

業を煮やした私は、大阪のH主事に電話しました。

(私)「大阪チームは、どうなっているですか? 連日問い合わせ対応に取られて、

   こっちの進捗にまで影響が出ていますよ。」

(H)「すまんね。。。何せこっちは新人ばっかりなんや。未熟な分は、

   そっちのフォローに期待しているんだけど。」

(私)「大阪の方が人が多いでしょ? こっちは3人で回しているんですから、

    なんとか体制を立てなおして対応してください!」

(H)「わかったけど。。。期待せんといて。」

 

結果は。。。予想通り、何も改善されず、でした。。。

 

 初めて大阪チームの成果物が届きました。

箱を開けると立派な納品書。

 表紙には、リーダのH主事と、総責任者としてS部長の印が押されていました。

。。。ドキドキ。 さて、中身は。。。?

表紙を一枚めくって、検証結果を見てみるといきなり目に飛び込んできたのは、

溶解人間ベム」 でした。。。

「は?!」

どうもテストデータ用の人名として、ベム氏を使っていた様でした。

次のページも、次のページも。。。めくってもめくってもこの調子でした。。。

 

「何これ? しかも「溶解」違いだし!!(怒)」

 

速、大阪に電話。。。

(私)「もしもし、H主事?」

(H)「なんや? どうした?」

(私)「納品物件届きましたけど。。。中身見ました?」

(H)「え? 。。。。ざっと見たけど(語尾が弱い)」

(私)「ちょっと開けて見てくれます?」

(H)「うん。。。これが何か?」

(私)「溶解人間って何ですか? 別に名前なら何でもいいけど、

    これはちょっとふざけて過ぎじゃないですか?」

(H)「あちゃ。。 ごめん、注意しておくから。。。」

(私)「そうではなくて、ちゃんとあなたがチェックして下さい。

    アナタがチェックしないとダメでしょう!」

 

 後から知ったのですが、このイタズラをした新人君ですが、

全社会議で、社長から大目玉を喰らって、間もなく退職したそうです。

私がそれを知って、激怒したのは随分と後の話になります。。。

 

 大阪からの納品物件(プログラム)ですが、この調子ですから、

精度は低く(バグだらけで)、残念ながら全く使い物にならない代物でした。

納品してもらっては、東京チームでチェックし、ほとんどNGで返すという毎日。

進捗はドンドン遅れて。。。

冒頭のN主任とのやり取りに繋がります。

しかし。。。何度大阪チームの惨状を訴えてもN主任にはどうにも出来ませんでした。

恐らくM社の「組織の壁」っていうものに阻害されたのでしょう。。。

 

メンバーは連日連夜の長時間残業で、目が真っ赤。

体力の限界に近づいていました。

どうしてもこのままでは納期に間に合わなくなってしまう状態になっていると判断せざるをえない状況でした。

 

一刻も早く改善しなければ。。。でもどうしたら?

私の脳裏に「最後の手段」が浮かびました。

恐らく、この手を使えばきっと。。。

 

私はプロマネのSさんを呼びました。

(私)「Sさん、済みません。今のままでは、納期までに完成できないと思います。」

(S)「。。。やっぱり?」

(私)「はい。残念ながら。申し訳ない事に大阪の弊社のパワーが足りなさすぎます。」

(S)「どうしたら良い?」

(私)「まだ一つだけ手があります。」

(S)「え? どんな?」

(私)「株式会社Mに、猛烈なクレームを上げてください。」

(S)「え?」

(私)「恥ずかしい事ですけど、株式会社Mは「顧客第一主義」の会社です。

    特に「クレームは最優先に対応する」というのが社是になっているんです。

    申し訳無いんですけど、派手にクレームを上げて頂ければ、きっと

    最優先に対応してくれると思うんです。」

(S)「?!。。。わかりました。 で、誰に何と言えば?」

(私)「はい。原稿は考えます。お任せください(笑)」

 

。。。効果はテキメンでした。

翌日には、大阪メンバー15人、H主事、S部長が東京に到着しました。

(S部長は株式会社Mで、社長の次ぐらいに権力の有った人でした。

 私が入社面接した時の東京のボス、私が一年生の時に

 「もう帰るんかい ぼけ! 死ね!」と言った人です。。。)

東京の手の空いている主任、一般社員もかき集められ、

大きな部屋を借りて開発が始まりました。

 

S部長が私を呼びました。

私は腸が煮えくり返っている状態でした。

何か言われたら暴言を吐くのを抑え切れない状態だったと思います。。。

 

幸い。。。彼も私の雰囲気を見て感じる事が有ったと見えて、ぽつりと。

(S)「大阪メンバー全員到着しました。よろしく。」とだけ言いました。

(私)「はい。よろしくお願いいたします。仕上げて下さいね。」

S部長の目を真っ直ぐ見つめて、ニコリともせずにこう言いました。

 

 

 テコ入れが入った事で、進捗は上がり始めたのですが、微妙に追いつかない。。。

大阪チームは徹夜体制で取り組みました。

◯◯省のお客さんにプレゼンする日があと一週間に迫ってきましたが、

まだ、全機能完成にはなっていませんでした。

 

(S)「こうなったら、プレゼンで見せる所だけでも完全に動く様にしよう!」

(私)「そうですか。。。わかりました。」

 

プレゼンの日が刻一刻と近づいていました。

プレゼン4日前になっても沢山のバグが出てしまって、見せられない状況でした。

沢山いるM社の技術者のうち、このシステムを完全に理解できていたのは、

部下のU君だけでした。自然とバグ取りは彼に集中する事になりました。

(システムが斬新過ぎました。私が彼の手伝いを出来なかった事を今でも悔いています)

 

プレゼン2日前の明け方。。。

ほとんどのバグを片付けたU君が、画面を見ながら

(U)「あれっ? どうしたんだろう? 何も考えられない。。。」

と言い出しました。目はうつろ。。。顔色は真っ青でした。。。

連続徹夜、何日目だったか。。。?

とうとうU君にも限界が来た様でした。

(私)「U君、もう限界だ。家に帰って8時間寝ろ。そして戻って来い。」

(U)「でも、私がいないと。。。」

(私)「分かっているけど、今の状態じゃ役に立たないでしょ。

    ゆっくり休んで、最終日に出てきてくれ。」

(U)「。。。わかりました。じゃ、最後のこの問題だけ片づけたら帰ります。。。」

 

その日の朝。。。

私の直属の上司ではないN主任が私に電話をかけてきました。

(N)「Uを帰したんだって?!」

(私)「はい。」

(N)「すぐに呼び戻せ! 彼がいないと問題解決できないだろうが!」

(私)「もう、彼は限界です。それに現時点で全ての問題点はクリアされています」

(N)「いいから呼び戻せよ! 疲れているんならそこで寝かせれば良いじゃないか」

(私)「こんな所で寝ても疲れは取れません。今日中ぐらいは保つかも知れませんが、

    明日、最終日に大きな問題が起こった時に、対応するものがいなくなります。」

(N)「いいから。早く呼び戻せ!」

(私)「絶対に駄目です。」

(N)「。。。何か有ったら責任取れよ!」

(私)「勿論です。。。。ありがとうございます。」    

 

 

 その日は特に大きな事件もなく、プレゼン前日。。。

U君も元気な顔で復帰。深夜まで最後の調整を行いました。

深夜2時ぐらいのこと。

(部下N君)「私の担当分、終わりました!」 

(私)「よし! 良くやった! もう帰って良いぞ!」

(部下N君)「えっ?!」

 

 私とU君は最後までテストをして、終わったのがプレゼン当日の明け方でした。

「終わった。。。」

二人とも大きなソファーに折り重なる様に眠りこけてしまいました。

 

 

プレゼン当日。。。

プロマネSさんは、入念にプレゼンの練習をしています。

(S)「えっと、このボタンを押して、データを表示して、

            ◯番目のデータを選んで、ボタンを押して。。。」

(Sさん上司)「おお、出来たか。どれどれ、このボタンを押すとどうなるの?」

(S)「ああっ! ダメダメ、それを押したらエラーが。。。。」

(システムエラーのダイアログが表示される。。。)

(Sさん上司)「ご、ゴメン。。。」

 

 

プレゼンの練習はこんな調子でしたが、本番は無事に上手く行き、好評を得て。。。

何とか辛うじて、プロジェクトは成功という事になりました。

 

 

 私はこのプロジェクトを通じて、M社の欠点を痛感させられました。

何とか、これを変える事はできないものか。。。?

そんな事を考える様になったのでした。